A:歴戦の闘獣 マヘス
「ハラタリ修練所」から脱走した獣闘用の魔物「マへス」…。
隊商の脅威となっているため、手配されている。
実に凶暴なヤツだが、過去に一度、名うての女冒険者が追い詰めたことがある。だが、あと一歩のところで、逃げられてしまったようだ。
~手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
マヘスは小さく飛び上がると一気に体の向きを変えて、そのままステップを踏むようピョンピョンと横移動した。左前脚で牽制するように手を出す。ララフェルのタンクが飛び下がって躱す。と、同時にマヘスは一歩踏み込んで右の前足で切り裂きに行こうとする。ララフェルはそれを小さい体をさらに小さくして腕の下をくぐりマヘスの顎下に入り込むと真上に剣をあげて飛び上がった。マヘスはそれを上半身を横に逸らして躱した。
「しまった!」
マヘスは自分の顔の高さにいるララフェルに噛み付くつもりだ。空中に居ては躱しようがない。
「うあああ、僕を食べるとお腹壊すぞ!!」
その牙が届くか届かないかの所でマヘスは気付いた。
上に影がいる。
槍を構えた姉はマヘスの真上で体を回転させると槍に全体重を乗せて急降下した。マヘスは噛みつくのを諦め必死で首を捻った。その瞬間何かがマヘスの体から落ちた。槍の切っ先は急所を外したもののマヘスの右の髭を切り落とした。
「どやっ」
得意気な笑みを浮かべながら間合いを取ろうと後に飛びのき、着地した瞬間、姉は横殴りの衝撃を受けて吹っ飛んだ。マヘスの左髭の攻撃だった。左髭の殴打は無防備だった脇腹に深くヒットした。
「ぐぅう」
なんとか体勢を整え受け身を取ったもののダメージは大きかった。髭の第2撃が来る!
ララフェルは必死でマヘスを挑発する。
だが、効果がない。
「なんでだ!」
髭が鞭のようにしなり空を切る音がする。あたしは姉を庇うように姉とマヘスの間に走り込んだ。
「マバリア!」
透明の丸い魔力のバリアが2人を包む。
マヘスの髭がバリアに当たると同時に空気中に蜘蛛の巣のようなヒビが入りガラスのような高い音を立ててバリアは粉々に砕け散った。幾分威力は削いだがあたしはマヘスの尾で横っ面を叩かれ3mほど吹っ飛んだ。それでも地面をごろごろ転がり立ち上がった。
「ちゃんとヘイト取んなさいよ!」
血の混ざった唾を飛ばしながらララフェルに叫んだ。
「ごめん!でも、やってるんだよ!」
しかし、マヘスは視線を姉から外さない。
「・・・そっか。覚えとったんか」
姉はマヘスを睨んで言った。
「私を狙ろてるんやな?」
槍を杖にしてユラっと立ち上がった。
口の端から流れた血を手の甲で乱暴に拭いた。
「上等じゃぁ!妹に髭出した事後悔さしたる!」
姉は槍を構えるとマヘスに向かって走り出した。槍を横に構え、まっすぐ突っ込む。猛スピードで飛び込んでくる姉を爪で切り裂こうとマヘスの右前脚が動く。その筋肉の動きを合図に槍で地面を突く。棒高跳びのように槍を支えに体が宙に舞う、その下をマヘスの前足が薙ぎ払う。姉は縦に体を回転させると、その勢いで槍をマヘスの真上から振り下ろそうとした。
マヘスを隻眼にしたまさにあの時と同じように。
だがマヘスは落ち着いていた。片目を失ったあの時を覚えていて動きを読んでいたのだ。マヘスは太い尾でニッケを叩き落とそうと体を捩った。
「せやろ。覚えてると思ったわ」
姉はマヘスが対応してくる事を読んでいた。空中で体の向きをクルッと変えると迫って来る尾を槍で切断し、残った根元の尾を掴む。掴んだ尾を中心にグルンと体を回すと、マヘスの胴体に向け槍を抱くようにして急降下した。遠心力が加わり威力を増した槍はマヘスの背中から胸まで貫通した。
マヘスの背中に着地した姉は槍を引き抜き、飛び降りると身構えた。
マヘスは鋭い目で睨むと一歩前に足を出した。その途端口から大量の血を吐き出し、そのまま横倒しに倒れた。
姉の一撃はどうやらマヘスの心臓を突き破ったようだ。自らの流した血の海でマヘスは倒れて動かなくなった。
姉はそれでもしばらく槍を構えたまま肩で息をしていた。
「どや、参ったか・・・」